知識と心がけ&工夫で乗り切る
開放的な夏は、屋外や集団で遊ぶことが多くなる季節。
赤ちゃんや子どもには、さまざまなウイルスや細菌による感染、夏の事故などに対する注意が必要です。
対策について、小児科医の前原幸治先生にお話を伺いました。
前原幸治先生
まえはら小児科(東京都多摩市)院長。適切な診療と気さくな人柄で、地域のママたちの信頼は厚く、明るい笑顔で子どもたちからも好かれている。2男3女の5人のお子さんのパパでもある。
気温と湿気が高い夏場は、ウィルスや細菌が繁殖する時期。抵抗力が弱い乳幼児は、ウイルス性の病気が流行すると、大人に比べて感染しやすくなります。
乳幼児がかかる夏風邪は、手足口病、ヘルパンギーナ、プール熱など。せきやくしゃみなどの飛沫を通じて、ウイルス感染し発症します。発熱や喉の痛みなどの他に、その病気特有の発疹などの症状がみられるのが夏風邪の特徴です。
ウイルスの感染力は非常に強力。感染した人に近寄らないことが一番の予防ですが、いろいろなモノを口に入れたりなめたりする赤ちゃんの場合、おもちゃの貸し借りからもうつることがあります。きょうだいのどちらかが感染したら、タオルなどの共用は避けましょう。感染した場合は、熱が下がっても医師の許可が出るまで外出はひかえましょう。
感染した場合、いずれも病気そのものを治す薬はないため、熱を下げたり痛みを和らげるなどの対症療法が基本となります。それほど重症化する心配はなく、時間の経過と共に自然に治っていきますが、合併症として発熱初期に熱性けいれんを伴うことがあります。ごくまれに脳炎を発症することもあるので、嘔吐を何回も繰り返す時などは要注意。発疹に気づいたり、普段と様子が違ったら、早めにかかりつけ医を受診しましょう。
この時期、多くの乳幼児がかかるとびひ(伝染性膿痂疹)は、細菌性の病気。原因の黄色ブドウ球菌はどこにでもいる細菌ですが、皮膚に傷があるとたちまち感染し、ふやけた薄い皮の水泡ができます。水泡が破れて菌が拡大し、体のあちこちに発疹が広がるのが特徴で、周囲の人にも接触感染します。
あせもや傷があると発症しやすくなるため、汗をかいたらこまめにシャワーを浴び、虫さされなどは早く治療して、皮膚を清潔な状態に保つことが予防になります。また、アトピー性皮膚炎のある子どもは、もともと皮膚のバリア機能が弱く、とびひになりやすいので、日頃のケアを怠らず悪化させないこと。発熱やのどの痛みが現れる溶連菌感染症は、飛沫で感染するので風邪同様に注意しましょう。
細菌性の病気の治療は、基本的に抗生物質の内服薬で細菌の繁殖を抑えます。その場合、完全に菌が死滅するまで、医師の指示通り薬を飲み続けることが大切。途中でやめると、再発したり長引くことになります。
車で外出するとき、駐車時は一気に車内温度があがり、赤ちゃんはあっという間に熱中症になります。命の危険もありますから、短時間でも車中に赤ちゃんを置いて行くことは絶対にしないこと。
海や川、プールなどでの水遊びの機会が増えると、溺水事故の危険が多くなります。アウトドアでは、子どもだけで遊ばせず、大人が一緒に遊ぶようにしましょう。
日射病・熱射病に対する注意も大切。体温調節機能が未熟な乳幼児は体に熱がこもりやすく、汗で水分が失われると、たちまち脱水症を起こしてしまいます。帽子や衣服での暑さ対策をするとともに、炎天下は避けて、午前中や夕方に出かけ、木陰や日陰で休む時間を取りましょう。乳児用イオン飲料なども利用し、こまめな水分補給を心がけ、汗をかいたら着替えさせたり、シャワーや水浴びなどさせると、あせもやとびひなど皮膚疾患の予防になります。少しでも快適に過ごせる工夫をして、暑い夏を元気に乗り切りましょう。
腸内のコクサッキーウイルスなど複数のウイルス。主に咳やくしゃみ、唾液などの飛沫感染。便から排泄されたウイルスが口から感染することもある。 | |
突然39℃前後の高熱が出て、のどの奥に水疱ができる。食べ物を飲み込むのに痛みが伴い、水分をとれずに脱水症状を引き起こすこともあるので要注意。 | |
熱や痛みをやわらげる処方薬。 |
黄色ブドウ球菌があせもや虫さされ、アトピー性皮膚炎などのひっかき傷について感染。 | |
膿を持った水泡ができ、手でかきわこすことで破れてジュクジュクとした汁が拡散、発疹が全身へ広がる。かゆみが強い。 | |
抗生物質の内服薬で細菌の繁殖を抑えるのが基本。皮膚には抗生物質入りの軟膏塗布、ガーゼで菌が広がらないよう対処。 |
腸内のコクサッキーウイルスなど複数のウイルス。主に咳やくしゃみ、唾液などの飛沫感染。便から排泄されたウイルスが口から感染することもある。 | |
手のひら、足の裏、口の中、お尻などに小さな水泡性の発疹ができる。痛みやかゆみはなく、熱は出ても38度前後の微熱程度。口の中の発疹が破れると、食べ物を飲み込む時に痛くなる。 | |
熱や痛みをやわらげる処方薬。 |
アデノウイルスが、目やに、鼻汁、飛沫などから、口、鼻、喉、目の結膜について感染。プールの水や、食器、タオルの共用でも感染する。 | |
39℃前後の高熱が4〜7日続き、喉が赤くはれ、結膜炎を伴う。発熱、結膜炎、喉の腫れが同時に現れるとは限らない。 | |
熱や痛みをやわらげる処方薬。 |
溶血性連鎖球菌が鼻、のど、扁桃腺について感染。せき、くしゃみ、唾液による飛沫感染がほとんど。 | |
突然39℃前後の発熱とのどの痛みから始まり、扁桃腺が赤く腫れたり、舌が赤くブツブツに腫れてイチゴ舌と呼ばれる状態になる。その後、赤い発疹が胸やお腹、腕、太ももなどに出てくる場合がある。 | |
抗生物質の内服薬で細菌の繁殖を抑えるのが基本。皮膚には軟膏塗布。 |
●部屋で過ごすとき
ベビーベッドの場所は、日当たりのいい窓際はなるべく避けて。風通しをよくしたり、遮光カーテンを利用すると、室内の気温上昇を防ぐことができます。ツルが伸びる植物をベランダで育て、緑のカーテンにして日差しを遮るのもオススメ。
●ベビーカーでの外出
地面に近い赤ちゃんは、ママより気温の高い位置にいるので薄着にしましょう。ベビーカーは日除けをし、風が通るような工夫を。保冷剤を背もたれにつけたり、濡れタオルでおでこや首、背中などを冷やすと、熱射病対策になります。
●公共の施設を利用
暑い日中は児童館や図書館、ショッピングセンターの子どもの遊び場など、冷房がある施設も利用しましょう。夏場は、親子向けのイベントなども多数行われているので、予定を確認していろいろなイベントに積極的に参加してみては。
イラスト/サカモトアキコ 取材・文/中野洋子