子どもの育ちに合ったBeing&Doingの関わり方がポイント
同じ環境で育つきょうだいでも、子どもの性格は違うことは多いもの。「どうしてこの子はのんびりなの」「落ち着きがないんだから」などと、我が子の性格がどうも気になってしまうママも少なくありません。子どもの性格と向き合い方について、臨床心理士の秋山邦久先生に教えていただきました。
子どもにはそれぞれ生まれつきの「気質」があり、「性格」というのは、成長するにつれて形成されてくるものです。生まれ持った「気質」はその人の核として、成長しても基本的に変わることはなく、環境や周囲の人の関わり方によって、行動パターンが変わってきます。それが「性格」という形で現れてくるわけです。
「気質」は大きく分けて、2種類。
何か行動することで喜びを見いだす「Doing(ドゥイング)タイプ」と、そこに存在しているだけで何もしなくても幸せな「Being(ビーイング)タイプ」があります。
乳幼児の時期というのは、生まれながらの気質が色濃く現れるもの。いつもゆったり行動する穏やかなBeingタイプの子どもと、ひとところにじっとしていられないアクティブなDoingタイプの子どもでは、違いは明らかですね。
親自身にもこの気質がありますから、親子で気質のタイプが違う場合に、お母さんは「どうも合わない」と感じることがあります。Doingタイプのお母さんはBeingタイプの子どもに対して、「やることが遅い」とイライラするでしょうし、逆にBeingタイプのお母さんはDoingタイプの子どもを、「落ち着きがない」と感じるでしょう。
子育てはお母さんにとって、つねに新たな経験に出会える機会です。
タイプの違う気質の子どもを持ったお母さんは、自分の枠を広げて成長できるチャンスだととらえましょう。BeingかDoingか、自分と子どものタイプを理解したうえで、時には「子どもに合わせる」心がけが大事です。Doingタイプのお母さんは、Beingタイプの子どもに合わせてのんびりペースで過ごしてみる、Beingタイプのお母さんはDoingタイプの子どもに合わせてアクティブになってみる。そうすると、これまでと違う自分自身が引き出されてきます。
性格形成において重要なのは、乳児期に十分な安心感が与えられることです。そのためには、いずれのタイプの子でも、まずBeingを基本にすることが大事。つまり、あるがままを受け入れ、おっぱいをあげたり、おむつを替えるなど、その子の欲求をつねに満たしてあげることです。これが「自分は愛されている。ここにいていいんだ」という安心感のベースになり、お母さんを通して人への基本的信頼感が育ちます。
よくDoingタイプのお母さんは、「自分が楽しいから」と、毎日刺激的に過ごし、子どもをいろんなところへ連れ回そうとしがちです。でも0~2歳の時期に一番必要なのは、安心と安定ですから、子どもの気持ちに寄り添い、 平穏で落ち着いた日々を基本としましょう。
起きる時間寝る時間をほぼ同じにし、同じテーブルでご飯を食べ、ほぼ同じ時間にお昼寝をする、夕食を食べたらお風呂に入るというように、毎日同じ場所で同じ行為を同じサイクルで繰り返していくことが、子どもに安心感を与えます。
Beingを中心に過ごし、安心感の土台ができている子どもは、その先の育ちの階段をちゃんと上っていくことができます。ところが、毎日起きる時間も寝る時間もバラバラで、毎日がイベント状態……。毎日違う時間の流れの中で生活していると、大人でも疲れたり落ち着かなくなりますが、子どもはなおさらそうなります。子ども自身、安心安定の心の土台が育まれていないと、学童期に入ってから心の不安が表面化することもあります。不登校になったり、閉じこもりがちになるケースもあります。あるがままの自分でいられる=Being状態をたっぷり経験することで、心の免疫が強化され、自己肯定感が育っていきます。
乳児期のBeing期、特にDoingタイプのお母さんは、自分の気持ちを抑えることで不安定になることがありますから要注意です。 自由に動けないイライラを募らせる前に、パートナーや周囲にサポートを求め、自分の時間を作ってリフレッシュしましょう。
Beingによって、安心感という土台ができてから、Doingすること。この流れが心の健全な成長をサポートします。
持って生まれた気質のあるがままを受け入れ、欲求を満たしてあげることで、安心感を根付かせる。
身の回りのことができるよう、しつけていくことで行動パターンができ、性格が形成されていく。
2歳前後の自我が芽生えるステップになると、今度はDoingが大事です。さまざまな行動や体験を通した学びが、子どもの性格形成につながります。たまに日常を離れて遊園地や動物園などに出かけたり、いつもと違うことをしてみたり、活動的に行動する機会を与えること( =Doing)も、この段階に入ってからが適切です。それも、興奮や刺激を与えるという意味では、月に数回で十分でしょう。
自我が育つうえでポイントとなるのは、しつけというDoing。食事の仕方、着替え、片付けなど、身近なことができるように教えるのは、子どもと根気づよく真剣に向き合う経験です。お母さんの指示に、子どもが「イヤイヤ」と意思表現する。そのぶつかり合いを通して、子どもは自分の感情に気づき、自我が形成されていきます。
あいさつ、片付け、靴をそろえるなどは、幼い頃に習慣化することで、自然と身に付いていきます。3~4歳頃の真似をしたがる時期は、お母さんやお父さんが「こうやるんだよ」と行動のモデルを示しましょう。
実際にやらせてみて、上手にできたらほめることも大事。日々の関わりによって、「こういうときは、こうする(こうしたい)」という行動パターンが作られ、その子どもの性格になっていきます。性格は行動パターンととらえてもいいでしょう。
Doingの子どもをおとなしくさせようとか、Beingの子どもを積極的にさせようとか、気になる部分があると、なんとか変えようと思いがちです。バランスをとろうとしたり、みんなと同じにすることは意味がありません。
お母さんや周囲の大人がどう接するかで、行動パターンは変わります。大人でも、本当は静かにしている方が落ち着くタイプだけれど、積極的に発言する人がいます。周囲の人や環境によって、性格が形成されていくということです。
持って生まれた気質、良い部分を大事にして、伸ばしてあげましょう。それが、その子らしい性格=「個性」になっていきます。これからの時代、学歴などを手に入れるよりも、自分の意思表示がちゃんとできて、人と違った個性を持つ人間に成長する方が重要なのではないかと思います。親として自分も成長させてもらっているという思いで、日々子どもと向き合ってみてはいかがでしょうか。
イラスト/サカモトアキコ 取材・文/中野洋子