パパは厳しく叱る役?
「パパはがつんと叱る役!」という方針の家庭も多いのではないでしょうか。母親の役割、父親の役割、母性父性、パパとして子どもにどう関わっていったらいいのでしょうか。大阪教育大学の小崎恭弘先生に伺いました。
勉強ができることも大切ですが、でもその前に「生きる力」が子どもたちだけではなく、大人も弱まっているのではないかと言われています。そもそも、「生きる力」とはどういうことなのでしょうか。
色々な解釈が成り立ちますが、幼い子どもには次の3つの力を持って欲しいと思っています。
1.自分自身を発揮する力
2.生を培う力
3.人と関われる力
1つめの「自分自身を発揮する力」とは、自分の思いを行動に移したり、表現したりすることです。個性の発揮や自己表現ができるということです。自分の気持ちを伝えることができたり、自分の好きなこと、得意なことに熱中し、打ち込んでいかれる力です。その力が発揮できるためには、自分が好きだったり、自分の考え方でいいんだというベースが必要です。つまり、自分に対する信頼感や自己肯定感を持てていることが、大切になります。
2つめの「生を培う力」とは、基本的な生活習慣を行う力のことです。食べる、寝る、排泄する、などは生きるための基本的な力と言えます。「食べたい」「寝たい」など、自分から欲求を発する力も必要です。特に乳幼児期は、心と体が近いので、体調が整っていると、基本的な心も安定します。それらを基本として、体を動かしたい、遊びたい、活動したいという力につながっていきます。
3つめの「人と関われる力」とは、親や周りの大人をはじめとして、人との関わりを持つ力です。友だちと関わる力、人に甘えることや依存できることなども含めて、人との関わりを積極的に行う力です。
これらの力が、それぞれに独立してあるのではなく、うまく子どもの中で混ざり合い、それぞれに影響を与えて、その子ども(人)らしく生きていける力が、「生きる力」だと考えます。
平日は仕事が遅くて、関わるのは週末だけ。楽しく遊び相手をしていますが、ママにイイトコドリと言われてしまいます。
子育て=子どもと遊ぶ」と思っていませんか。予防接種や健康診断、服や靴の購入に、しつけや習い事、ママ友とのおつきあいやお祝い返しなど、子育ての範囲は父親が思っている以上に広いのです。目の前の子どもだけを見て、楽しむだけではなく、ママの気持ちや想いに気づいて、そこへのフォローをしっかりとしましょう。
子育てしたいという気持ちはありますが、「ママがいい!」と泣いたりぐずったりするので、結局ママ任せに。どうしたら?
「ママがいい!」はこれまでの育ちの中で、ママが一番関わり、大切にし、よくしてくれたから。ママを一番に信頼しているからです。そこには、ママの苦労や頑張りがあったのです。だからパパもそのような、関わりや安心感を子どもたちに与えられるようにしましょう。最初は泣かれたり、嫌がられるかもしれませんが、ママに教えてもらいながら少しずつで良いので、子どもとの関係性を作っていきましょう。
子どもが大きくなったら、キャッチボールしたり、相手をしようとは思っていますが、子どもが小さい頃は、父親としての出番って、あんまりないように思うのですが?
ある日突然、子どもがキャッチボールをしてくれるようになるわけではありません。それまでの関わりや関係性が大切です。人と人の関わりなどは、すぐにできるものではありません。日々の積み重ねの中でしか、育まれていきません。だからこそ、子どもが幼い時から、しっかりと関わっていくことが大切です。
この「生きる力」を育んでいくために重要なのが、母性であり父性です。母性や父性とは、人間の中にあって、人との関わりを通じて、発揮される力です。「母性=母親」「父性=父親」ということではありません。父親にも母性もあり、母親にも父性はあります。
母性は一般的に、優しさや包む力と言われています。子どもに対して全てを受け止め、包み込む力です。全受容と言います。子育ての第一義的な力はこの母性であると言えます。「いい子だから」「○○ができるから」という条件付きではなく、無条件にありのままを受け止めるということ。これは、生きていく上での基礎となるところ。乳幼児の場合は特に、生命を保持するためにも、心の基盤を作っていくためにも母性が必要です。
父性は、強さの力、また切る力と言われます。母性により守られているものを断ち切り、社会に押し出す力。マナーや道徳心、公共心、そして外に向かう力を教えていくのが父性です。
母性と父性、この二つの力のバランスを子育てでは意識する必要があります。
母性と父性のどちらかが偏って強すぎると、依存が強くなったり、攻撃的になるなど、心が不安定になります。いい加減=いいバランスが必要です。
父親として子どもに接するときに、心がけるべきことはなんでしょうか。当たり前ですが、わが子を育てる責任は親としてありますが、わが子は親の持ち物、所有物ではないということです。子どもも一人の人として生きています。「絶対に親の言うことを聞かせなくていけない」とか、「親として、子どもに負ける(子どもの言い分を聞く)ことは許されない」など思う必要はありません。
また、子どもをバカにしたり、傷つけたり、叩いたり殴ることもいけません。子どもの気持ちも聞きつつ、やってはいけないことは伝え、アドバイスや提案して、子どもが自分で考え、行動していかれるようにサポートしていきましょう。
「父親だから常に厳しくあるべき」などという必要はありません。親子の生活の中で、「へ~、そんな遊び方するんだな」「そんな風に思ったんだ」など、子どもの行動や感情を受け止め、楽しみながら接してみましょう。
子どもの生きる力を育むために、父親としてできることはなんでしょうか。
冒頭にあげた「三つの生きる力」をもう一度確認しましょう。父親自身が、この力をしっかりと持てているでしょうか。まずはそのことを大切にして欲しいと思います。
・父親として自分自身に肯定的ですか?
・父親として健康に生きることができていますか?
・父親として多くの人との関わりを持っていますか?
子どもに色々と求めると同時に、自分自身を一つの鏡として子どもたちに見せること、あるいは誇ることができているでしょうか。まずは、そんなことから始めましょう。
「子どもは育てたように育つ」とも言われます。親の子どもへの関わり方はもちろんですが、子どもが一番大好きで、子どもが一番身近にお手本とするのが親なのです。親の生き方、親の立ち振る舞いを見せていくことが、子どもの生きる力を育むことにも大きな影響を与えていることを認識しておきましょう。
これらは、父親としてだけでなく、親として人としてダメなことです。
◎人と比べること
友だちとはもちろん、きょうだいでも成長に差がありますし、個性も違います。その子の過去と比べて、成長をほめましょう。
◎ママを馬鹿にすること
ママも、子どもも1人の人として尊重して接すること。それが、子どもの他者への関わり方のお手本にもなります。
◎手をあげること、脅すこと
恐怖や威圧で行動をコントロールしても、それは強制されてやっているだけのことです。子どもが自分で生きていく力にはなりません。
◎過度な条件をつけること
応援はいいですが、「そのためには○○と△△をやらなければダメだ」など到底クリアできない条件をつけて追いつめるのは、子どもが伸びる力になりません。
◎おもちゃ、お菓子で釣ること
もので釣ったり、交換条件をつけると、頑張る目的が変わってしまいます。達成できたときに「頑張ったね」「よくやった」という言葉と笑顔が賞賛になります。
イラスト/サカモトアキコ 取材・文/高祖常子