「自分で調べる」「体験する」「話し合う」ことが大切
「アクティブ・ラーニング」という言葉、聞いたことがありますか。そもそもアクティブ・ラーニングとは、何を意味するのでしょうか?なぜ必要なのでしょうか? 親として、乳幼児期から心がける関わり方はあるのでしょうか? 学習指導要領改訂のとりまとめを担当された無藤隆先生に伺いました。
無藤 隆先生
白梅学園大学大学院専任教授、子ども学研究所所長。教育学者。文部科学省中央教育審議会委員・教育課程部会長、内閣府子ども・子育て会議委員。『学習指導要領改訂のキーワード』(明治図書出版)、『幼児教育のデザイン』(東京大学出版会)をはじめ、著書多数。
アクティブ・ラーニングとは、ひと言でいうと「課題の発見・解決に向けた主体的・恊働的な学び」のこと。保育や授業の中で、先生や講師から一方的に話を聞く“受動的”な学習ではなく、書いたり、質問に答えたり、意見を発表しあったりなど“能動的”に学習することを表します。
アクティブ・ラーニングという言葉は、大学や高校の教育の場で使われ始めました。これまでの日本の大学、高校教育を振り返り、「グローバル化、高度情報化が進むこれからの時代に対応していくためには、教員の講義を聞くだけではなく、教員と学生がコミュニケーションを重ねながら主体的に答えを見いだす授業が必要である」と判断。授業の“中身”でなく“方法”、つまり、「何を学ぶか」でなく「いかに学ぶか」を重視した教育を推し進めていこうということになったのです。
この流れをうけ、小学校や中学校教育においてもアクティブ・ラーニングが注目されるように。小学校では「活動する」「自分で調べる」「体験する」「話し合う」「実験する」などに重きを置いて、授業が見直されるようになりました。
近年、「小学校低学年は学びがゼロからスタートするわけではなく、幼児教育で身につけたことを生かしながら各教科の学びにつなぎ、資質や能力をのばして行く時期である」という考え方から、幼児教育と小学校教育の連携が注目されています。
乳幼時期の子どもは、自分の興味や好奇心から主体的に動いているので、毎日が“アクティブ・ラーニング”。今更ではありますが、「幼児教育の体系の中で、改めてアクティブ・ラーニングを意識しよう」という動きになってきたというわけです。
幼児教育の現場では、アクティブ・ラーニングの視点から以下の3つの学びが必要であると考えられています。1つめは、子どもたちの「やってみたい!」という気持ちを引き出しつつ遊び、その遊びを振り返ったり見通しを立てる「主体的な学び」。2つめは、砂遊びなど園での遊びを通してできたものを皆で見たり、運動遊びの様子を先生がビデオに撮り、それらを見ながら自分の思いを伝えたりアイディアを出し合う「対話的な学び」。3つめは、このような活動を通して自分で気づいたり、先生や友達と話し合いながら考えを深めていく「深い学び」です。
「園庭を走り回る」などは、この時期の子どもにもちろん必要なのですが、「ただやみくもに走り回るだけ」ではアクティブ・ラーニングとは言いません。アクティブ・ラーニングには、体を動かすことだけでなく、絵本を読んだり工作したりする活動なども含まれます。
絵本を読んだあとに、子どもたちがおもしろがってその世界を積み木や工作で表現していくなど、「子どもたちのさまざまな活動を、どのようにして意味のあるものにして学びにつなげていくか」ということが大切なのです。
幼児教育の中でアクティブ・ラーニングをより深めていくには、園の先生や保育士が子どもたちにどのように声をかけるのか、どのように介入して遊びを発展させていくのか……など、子どもへの関わり方がとても大切になってきます。そこで、幼児教育の研究や幼稚園教諭、保育士への教育を行う都道府県の「幼児教育センター」や、幼児教育の専門的な知見や豊富な経験を持つ「幼児教育アドバイザー」がその牽引役を担い、市区町村や大学などと協力しながら研修やワークショップを開催しています。幼稚園教諭や保育士が、乳幼児期のアクティブ・ラーニングのあり方を学ぶ仕組みが整ってきています。
園での生活を通して幼児が身につけていくことが望まれる具体的な姿を抽出。これらを明確にすることで、幼児教育と小学校教育とのより一層の連携が望まれています。
1 健康な心と体
自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせながら取り組む。
2 自立心
自分でしなければならないことを自覚して行い、やり遂げる。
3 協同性
友達との関わりを通してお互いの思いや考えなどを共有できる。
4 道徳性・規範意識の芽生え
友達とおりあいをつけながら、決まりを守る必要性がわかる。
5 社会生活との関わり
家族を大切にし、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみを持つ。
6 思考力の芽生え
物の性質やしくみに気づいたりする中で、自ら判断したり考え直したりする。
7 自然との関わり・生命尊重
自然の変化を感じ取り、自然への関心を高め、身近な動植物に親しみをもつ。
8 数量・図形、文字等への関心・感覚
遊びや生活の中で、数や図形、文字の役割に気づいたり関心をもつ。
9 言葉による伝え合い
絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身につける。
10 豊かな感性と表現
みずみずしい感性をもとに、感じたことや思ったことを自分で表現する
子どもを育むために、親自身もアクティブ・ラーニングを意識した関わりができるといいですね。といっても、難しいことはありません。大切なのは、子どもが見つけたことや気づいたこと、がんばったことを受け止め、喜び、ほめることです。
たとえば子どもと散歩しているとき。道ばたに咲いている花を見つけて「お花が咲いてる!きれいだね」と言ってきたら、「あ、そうね」「本当だ!よく気がついたね」などと受け止め、言葉を返す、これだけでいいのです。「葉っぱがギザギザしているね」「赤とピンクの色がきれいね」など、親自身が気づいたことをひと言添えるとさらに発見や想像がふくらみます。会話が続くと言葉が豊かになり、子どもの考えが発展していきます。
「雨が降ってきたよ」と言ってきたら、「本当だ。シトシト降っているね」「ザーザー降りだね」などと言葉をかけることで、子どもは“シトシト”“ザーザー”の概念を目や耳、皮膚の感覚で学びます。
子どもは、自分の言葉を親が聞いてくれると安心し、自分が体験したことや思ったことをどんどん伝えられるようになります。親も子どもの言葉に対応し、親子の会話が広がる……これこそがアクティブ・ラーニングです。園からの帰り道に「今日はこんなことがあったよ」と話すのも、体験を言葉にして表現するという行動。スーパーに買い物に行き、「今日はカレーを作るから、何を買ったらいいかな?」と親子で話しながら夕飯の材料を一緒に選ぶのもアクティブ・ラーニングと言えるでしょう。
子どもはもともと、“見つける力”を持っています。子どもが自らしていることに目を向け、言葉に耳を傾け、認め、言葉を返していく日々を積み重ねながら、子どもの力を引き出していきましょう。
幼稚園、保育園、認定こども園。アクティブ・ラーニングに違いはあるの?
幼稚園、保育園、認定こども園、それぞれのなりたちに違いはありますが、この時期の子どもの育ちは同様です。「幼児教育」として共通のものとして、勉強会や研修などが行われています。
「幼児教育アドバイザー」はどんな人がなるの?
幼稚園や保育園の園長、副園長を経験するなど幼児教育に長年携わってきた方がつとめる場合が多いです。各都道府県により異なりますが、少ない都道府県では2~3人、多い都道府県では20〜30人の幼児教育アドバイザーが存在します。
アクティブ・ラーニングの視点から、園選びのポイントを教えてください。
可能であれば、比較的長い時間見学させてもらい、先生と子どもとのやりとりに注目を。子どもの言葉や行動を拾い上げているかを見てみましょう。子どもがイキイキと遊び込めているか、自分を表現できているかなどを重視して選ぶといいでしょう。
イラスト/サカモトアキコ 取材・文/長島ともこ