育休取得とパパの子育ては当たり前
●パリ市の保育園
©Sophie Robichon/ MAIRIE DE PARIS
ビルの中や一軒家など、さまさまな形の保育園があります。親の働き方によって、預ける時間帯や曜日も違います。保育園は「子どもが健やかに成長する場所」であり「保護者の負担を軽減するところ」。そのため布団カバーやエプロンの持参は不要。登園初日に持参するのは記名付きの着替え一式と上履き、ストロー付きマグ程度。送迎する親は基本的に手ぶらです。
©Sophie Robichon/MAIRIE DE PARIS
●妊娠中やパパママ向け講座「アトリエ」のリスト
・フランスの法律。母性について
・出生届の出し方
・子どもが生まれるとはどういうことか
・無痛分娩について
・陣痛から退院まで
・新生児期からの栄養(粉ミルクについて)
・母乳アトリエ(産前/母乳の仕組み、産後/授乳時のポジション、パパにできること)など
●10回の産後ケアが無料で受けられる
産後90日以降から10回、無料(医療保険100%負担)で骨盤底筋及び腹筋のリハビリ治療を受けられます。日本では「膣の引き締め」「産後の充実した夫婦生活のため」と理解されていることも少なくありません。しかし、目的は産後に骨盤底筋・腹筋を緩んだまま放置すると、尿漏れの原因になるほか、高齢に差し掛かった時に内臓脱落が起きやすいため、予防策として行われています。具体的には膣に圧力計を入れ、理学療法士の指示を受けながら下腹部と骨盤底筋に力を入れるトレーニングをします。また自宅でできる腹筋トレーニングも習います。
一番左がパリ市児童局局長フィリップ・アンスブーさん、右隣の女性がパリ市家庭児童局所轄域内運営・推進責任者アンヌ・ドンゼルさん。
パリ市児童局のみなさんに話を伺いました。「パリ市の保育の特徴は、集団保育と個別保育の2本立てになっています。集団保育は公的なものは450園あり約2万4000人、私立や非営利団体の保育園では約9000人の子どもたちを保育しています。このほか保護者が運営に携わる「親保育園」もあります。公立私立に関わらず、保育園はすべて認可を受けています。認可基準に見合っているか調査・監督を行うのは、自治体管轄の母子保護センターです。
パリ市には母子保護センターが約120件あり、60人の医師がセンターに携わっています。母子保護センターは、地域の親子の相談に応じたり、乳幼児健診を行うほか、保育園の巡回も行っています。このほかにおもちゃ園(児童館)もあります。
パリの保育園は0歳~3歳の子どもを、親の都合に合わせて週1日~5日まで預かっています。時間は基本的に7時半~18時半です。0歳~6歳児の一時預かりは8時半~17時半までです。」
パリには20区あり、それぞれの区によって事情が異なるため「保育園共通電話番号」を設置したそうです。私立保育園との個人契約はどうしたらいいのか、必要な書類は何かなど、さまざまな疑問に答えてくれます。
パリ市内の保育園の分布図・資料と高崎さんの取材ノート
パリ市では働く親も増えているため、まだまだ保育園が足りないのが現状です。ただし、フランスでは3歳から全員が学校に行くため、待機児童問題で困っているのは2歳までの子を持つ親だけです。逆に言えば保育園に入れなくても、保育サービスなどを利用して2歳までを乗り切れば共働きを継続することができるということです。
保育園不足をカバーしているのが個別の保育サービス。ベビーシッターや「母親アシスタント」です。ベビーシッターは民間のサービスですが、母親アシスタントは簡単に言うとベビーシッターの進化系。1977年に母子保護センターが子守の認可制度をスタートして、母親アシスタントと名称が一新されました。社会保障制度の枠組みに組み込まれたため、費用の一部が自治体から補助されます。自治体主催の無料の60時間研修を受けると、資格が与えられ、自宅で子どもたちを保育します。預かる人数は1~4人で、審査結果により決められます。
フランスでは3歳未満の子を持つ約7割の女性が働いています。パパが子育てすることはもちろん、保育園や母親アシスタントが仕事復帰を支えているといえるでしょう。
現地に滞在しながら思ったのは、今まで編集部で取材した各国の中で一番子育てが大変そうというイメージ。地下鉄は階段ばかりでエスカレーターやエレベーターはほとんどついていません。歩道は石畳も多く、ベビーカーを押しながら歩くのは大変なところも少なくありません。
それでも、日本人ママたちが口をそろえて言っていたのは「フランスは子育てしやすい」ということ。それはパパと一緒に子育てするのが当たり前だったり、子育て支援に国からの財源がちゃんと充てられていたりということもあります。でも一番は、コミュニケーションが豊かで、個人を尊重し、子育て家庭にやさしいという文化かなと思いました。
ベビーカーでバスに乗るときには手伝ってくれたり、さっとスペースをあけてくれる。カフェ文化のため、通りがかりの人も気軽なコミュニケーションが盛んですが、各家庭の子育てを干渉しない。そんな距離感が子育てしやすさを感じさせているように思います。
母親アシスタント
マリクレールさん
公園で子どもを遊ばせていたカメルーン出身の母親アシスタント。フランスに住んで約20年とのこと。自身は4人のママで一番下は4歳。わが子は3カ月から預けて、母親アシスタントの仕事を続けているそう。生後3カ月から3歳までの子どもを預かっています。現在は2人の子ども(別々の家庭)を保育。ハンディキャップの赤ちゃんの勉強もしているベテランの母親アシスタントです。公園にはベビーカーに2人の子どもを乗せた母親アシスタントやベビーシッターが集まっています。
ベビーシッター会社
ジェニファーさん
ベビーシッター系の資格は2000年代で多様化しており、親たちには選択の 幅が広がっているのと同時に、「誰に任せるか」を見極めるための情報収集 能力も求められている状況です。「こちらの会社ではパリだけで500人のシッターさんを管理し、ユーザーとマッチングしています」とベビーシッター会社Educa Zen のジェニファーさん。
取材・文/高祖常子