「自分が好き!」は、未来に向かうパワーになる!
「自分のことがきらい」「自分なんてどうせ…」という中高生が少なくありません。他の人との違いを認め、自分に自信をもてるようになるために、幼少期、親はどのように子どもと向き合えばいいのでしょうか。青木紀久代先生にお話を伺いました。
青木紀久代先生
お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科研究科 発達臨床心理学領域 准教授。子育て支援や保育
場面での心理的問題についての臨床活動や実践的研究を続けている。著書は『調律行動から見た母子の情緒的交流と乳幼児の人格形成』(風間書房)など多数。
自己肯定感とは、「自分は自分のままで大丈夫」「自分で自分のことが、ほどほどに好きでいられる」という感覚。人より何かできるとか、人よりすぐれているとか、成功しているから……ということでは決してありません。
何かできたときに「ほめる」、できるように「はげます」ことは、子どもの心を高める方法。でもそれは、親からの一方向でしかありません。子どもの心を否定していませんし、しかも高めている言葉ではありますが、そのような言葉がけだけでは、子どもの自己肯定感を育むことはできません。
「自分が何かできる人間である」「人よりも、すぐれている」など、できる・できないを比較することによって、自己肯定感を持てるようにはならないのです。
一番大事なのは、子ども自身が「ありのままの自分が好き」という感覚を持てているかということです。
人に対する「基本的な信頼感」は、乳幼児期、特に生まれて1年間のうちに、その芽が育つと言われています。人生最初の心の課題とも言われるものです。
赤ちゃんは自分で何もできませんから、「不快」を感じると泣きます。おなかがすいた、おむつがぬれている、暑い、寒い……。赤ちゃんが泣くのは、不快な状態がずっと続くと、生死に関わる可能性があるから。赤ちゃん自身は何もできませんから、それを伝えるために泣くのです。
赤ちゃんが泣くと、お母さんやお父さんは抱き上げたり、なだめたり、授乳したり、おむつを替えてくれます。赤ちゃんは言葉で伝えられませんから、泣いている様子を見た親や周囲の大人たちが、赤ちゃんの要求を探って、赤ちゃんが「快」になる状態にしようと努力します。
「赤ちゃんが泣く→お母さんやお父さんが応答してくれる」ことで、赤ちゃんはお母さんやお父さんが自分の要求を満たそうとしてくれる、ありのままの自分を受け入れてくれる、自分が人に愛される存在である、という確信を持てるようになっていきます。
「発達=何かができるようになる」ことと思われがちですが、生きていく心の基礎として一番に身につけるべきことは、「無防備な自分を相手にゆだねて、生き延びられる確信」を持てること。赤ちゃん時代の心の原点です。
赤ちゃんが泣いていたら、抱っこしてもらったり、おむつを替えてもらったり……。不快な感覚から、他人の手で抱き上げられ、ふ~っといい感覚「快」になる体験を繰り返すことで、赤ちゃんは、自分とお母さん父さんが信頼できる関係であることを確信していきます。
ぐずったり泣いているとき、近づいてくるお母さんの足音、「どうしたのかな?」というやさしい声、抱き上げようとする手を感じると、赤ちゃんがちょっと泣きやむことがありますね。赤ちゃんは、行為をすべてしてもらったあとに快くなるわけではなく、その手前から予測することができるのです。
この予測が信頼感。お母さんやお父さんが、来てくれる、自分が不快だという気持ちを受け止めてくれる、対応してくれるという確信があること。この信頼感があるからこそ、イヤなことはイヤだと安心して泣くことができます。「困ったときに発信すると、助けてくれる人がいる」という心の基礎が築かれます。
とても原始的な形ですが、人生の中での世界観が、このような体験を通してつちかわれているのです。
自分が欲していることを一生懸命にキャッチしようとしてくれている。自分以外の人が、自分のために惜しみなく何かしようとしてくれている。ありのままの自分を受け入れてもらえる安心感を得ることで、自分の心が満たされ、相手を信頼できるようになっていきます。
人に育てられている自分を感じることは、心の原点になるものです。
子どもの心に立って考えてみませんか?
子どもの気持ちを尊重し、判断させているつもりなのに、親の「こうして欲しい」「こうすべき」という思いを察して、子どもが行動しているのかもしれません。子どもの心の声は、「ボクがあそんでいたのに。もっとあそびたかった……」という気持ちかも。
イラスト/犬塚円香 取材・文/高祖常子