「自分が好き!」は、未来に向かうパワーになる!
自分をありのままでいいと思えない、自分が嫌いという人は、将来を描くことも、どうでもよくなってしまうでしょう。自分に自信がなければ、生きていくのにも、何をするにも、不安だらけです。不安な状態の時には、相手の気持ちを考える心のゆとりは当然狭まります。相手に対して、思いやりの心を持つことは難しいでしょう。
自分が好きという気持ちは、将来に向かって進んでいける原動力となります。たとえイヤになることがあっても、やっぱり捨てられない思いを自分の中に持つことができるから、立ち直ることができるのです。
「自分のことがほどほどに好き」という感覚は、苦難に遭っても、最後に自分で自分のことを見捨てない力になります。「どうにかして生き延びられる」という思いを持てるということです。
普通に人生を生きているうちは、「自分のことが好き」なんて恥ずかしいと思うかもしれません。でも、最後に生きるか死ぬか、どうしようもない自分を人にゆだねることができるか、こんな自分だけど「助けてくれ」と人に頼れるか……。
窮地に立ったときに、だめな自分でも受け入れてもらえるという「世の中や人に対する信頼感」=心の支えは、前を向いて生きる力、未来に向かうパワーになります。
自分に対する相手と考えると、赤ちゃんの時の相手は、親しかいません。自分に対して応えてくれる存在があるからこそ、自分自身を認め、自分のことが好きになれます。
これまでたくさんの子どもたちと接する機会がありましたが、大変な経験をして児童養護施設などで生きてきた子どもが思春期を迎えたとき、お母さんお父さんに愛された経験があると、つらいことがあっても乗り越えられる印象があります。
赤ちゃんの泣きにひとつひとつ対応することはとても大変なことですが、小さなことにていねいに応じることは、子どもの将来に向けての投資。自己肯定感を育むことにつながっています。
自己肯定感は一度できたら、そのままずっと継続されていくものではなくて、さまざまな関係の中でメンテナンスされていくものです。子どもの気持ちに耳を傾けるという意識は、そのときどきでしていくことが必要でしょう。
子どもが育ってくると、練習したり教えたりして、ふっとできるようになったり、成長を感じたときに、ものすごくお母さんたち自身が自己肯定感を持つことがあります。子どもが何かできるようになる、子どもの将来が楽しみになることは、お母さん自身をとても励まします。
子どもが何か「できる」ようになることは親にとっても心地よいことです。一生懸命なお母さんほど、工夫して何とかして子どもを成功に導こうとします。ここで、「子どもを成功に導く=親自身の有能感が高まる」という連鎖に陥ることがあります。
かけっこで子どもが1等賞だったとき、子どもがうれしく感じる以上に、親は「1等を取った子どもがかわいくてしょうがない」と感じることがあるでしょう。そのときの本当にうれしそうな親の顔は、子ども自身に「いい体験なんだ」と意味づけます。
その後、子どもが「(親が喜ぶから)1等を取れるようにがんばる」ようになると、親が喜ぶことが子どもの喜びになるという図式になってしまうわけです。「親が欲する→子が出す(がんばる)→親が喜んだ顔を見て、子どもが安心する」これは母性的な関係の逆転です。
習い事やお受験などのときに、「これができたら、ほめてあげる」と、勝ち負けの原理に親が巻き込まれることは、子どもの自己肯定感の心の貯金をすり減らしてしまうことにもつながります。
自己肯定感とは、「子どもが自分の心のままに発したことに、親(相手)が応えてくれる」ことで育まれます。「親の要求を満たそうとがんばった子どもを見て、親が満足する」という図式になっていないかを、ときどき意識しましょう。
自己肯定感、「自分はこれでいいんだ」という思いを心の基礎として持っていると、子どもは、自分がしたいことに能力を開花させることができるでしょう。親子で育ち合い、子どもと出会えてよかったと思える毎日を、積み上げていけるといいですね。
イラスト/犬塚円香 取材・文/高祖常子