言われた通りにするのではなく、自分で考え、工夫できるようになるために、親として子どもをどう育んだらいいのでしょうか。「ダメ」と禁止したり、「こうしなさい」と指示することが多くなりがちな乳幼児期の接し方について、汐見稔幸先生に伺いました。
汐見稔幸先生
白梅学園大学名誉学長・東京大学名誉教授。 専門は教育学、教育人間学、育児学。
日本保育学会前会長、全国保育士養成協議会会長。ぐうたら村村長。三人の子どもの
育児にかかわってきた体験から父親の育児参加の呼びかけも行っている。
人間はもともと、人に言われなくても「自分で考える」ように生まれついている動物です。「これを考えなさい」と言われると多少は考えるかもしれませんが、自分でどうしても何とかしたいという気持ちがともなっていないので、さして真剣に考えません。考える子どもに育てるには、この「自分で考えたい」という気持ちを素直に伸ばすしか方法はありません。
人間の脳は複雑ですが、ある面から見ると単純です。自分で興味や関心を持って試みたり考えたときのみ、本当に身につくものですし、深く考えるのです。そういうことが自由にできる環境の中に放っておくと、「もっと、やってみたい」「作ってみたい」と、自分でどんどん考えていく存在なのです。
ではどうしたら、いろんなことに興味や関心を持って、自分でどんどん考えるように育てられるのでしょうか。
そのためには、子どもに「自分で考えなさい」と強く言ってもダメです。子どもは「自由に探索していいよ」という環境に置かれると、放っておいてもあれこれ興味を持って自分で手を出していく生き物。もともと強い好奇心を持っていますから、その好奇心を安心して発揮できる環境を、親が作ってあげることが大事なのです。
好奇心旺盛で自主性が育っている4~5歳児の成長をさかのぼってみると、1、2歳の時に興味・関心を豊かに表現できていたことがわかっています。
立ち歩きできるようになった1~2歳児は、いろいろなことに興味を持って、いたずらをたくさんします。
この“いたずら”という表現は大人の言い方で、子どもにとっては“真剣な探索活動”です。「これは何だろう」「どんな音がするのかな?」など、大人がおおらかな雰囲気の中で自由にやらせることで、子どもの自発的な行動が広がります。この行動が、子どもが自分で考える最初の営みなのです。
自分の子が「これをやると、ずっとやっているな~」というあそびをたくさんキャッチしましょう。たとえば、泥団子あそびに没頭している子を見つけたら、できるだけ自由に続けさせてあげるのです。すぐに「ダメ」と禁止されたり、叱られるかなと不安を感じる空間では、何かに集中するのは難しい。そういうところでは子どもは自分からあれこれ考えるということはしません。親がゆったりと見守る安心できる環境で、あそびに没頭させてあげましょう。
「自分でどうしたいのかを考える」ためには、自分の意見を押し通すだけではなく、人とやりとりしながら、相手の意見を受け止め、修正していく作業も必要です。そのためには、たとえば子どもたちの中で過ごすことも大切です。人の意見を聞かず自分の意見を押しつけてばかりでは、公平な思考力が身につきにくくなります
人と対話する、自分と違う意見を受け止める能力のベースは、親子の会話です。「失敗するに決まっている」「何バカなこと言ってるの?」と、子どもの言うことを頭ごなしに否定しないこと。
わが子だからこそ遠慮がない分、親は指示したり、高圧的な言い方になりがちです。
親子がそのような関係だと、子どもは自分で考えるのではなく、無意識のうちに親に叱られないように行動するようになります。大好きなママが喜ぶようなことを言ったり、枠からはみ出さないように行動しようと気遣い、自分の気持ちを表現しなくなってしまいます。指示や命令や禁止は、必要最低限に減らすように心がけましょう。
イラスト/サカモトアキコ 取材・文/高祖常子