子どもも親も、いっしょに成長!
子育てのとまどいや悩みで多いのが、イヤイヤ期の対応。親は、この時期の子どもとどう向き合い、どう接していけばいいのでしょうか。乳幼児期の発達や親子関係に詳しい坂上裕子先生に伺いました。
坂上裕子先生
青山学院大学教育人間科学部教授。臨床発達心理士。大学で乳幼児期の発達や親子関係についての研究を行うと同時に、子育て支援活動に従事している。主な著書は、『子どもの反抗期における母親の発達』(風間書房)など。1男の母。
ご飯を食べるときにイヤ、洋服を着るにもイヤ、お風呂や歯みがきもイヤ、いたずらや危ない事をして注意した時もイヤ……。子どもに何をしても、何を言っても「イヤ!」で言うことを聞かず、本当に困った……。多くのママが、こんな経験で悩んだ事があると思います。
衝突ばかりで、親にとってはしんどいと感じることも多い子どもの“イヤイヤ”ですが、そもそも、“イヤイヤ”は、親が感じる子どもの様子。子どもの側としては、自分を表現しているひとつの手段。成長に必要なひとつの過程です。
ママが「うちの子、もしかしてイヤイヤ期?」と困惑する最初の時期が、生後9カ月くらいの離乳食期。
ママの言うことを聞かず、食べ物や食器で遊ぶ、歩きながら食べるなどの行動に、悩む事も多いと思います。
生後9カ月くらいは、心理学の専門用語で「9カ月革命」とよばれ、子どもの心が大きく成長する時期。これまでの“ママと自分”という一対一のやりとりから、ママが「あ、○○よ」と言って指をさすとその方向を見るなど、物をめぐってやりとりができるようになる時期です。他者と物事を共有できるようにもなるけれど、すれ違いもおきてきます。こうしてほしい」というママの意図と「こうしたい」という赤ちゃんの意図がすれ違い、ぶつかり合うのは当たり前なのです。
手先も少しずつ器用になってきて「自分で食べたい」という気持ちが芽生え、はいはいやつかまり立ちなど体の発達がめざましいのもこの時期です。
ママは、こぼされないように、ママの思い通りに食べさせようとするのではなく、手づかみで子どもが自分で食べられる工夫をしてあげましょう。
できる事が増え始め、好奇心いっぱいの子どもの思いを認め、実現させてあげられるといいですね。こぼしたり、多少の遊び食べ・歩き食べも多めに見ながら、「自分で食べられたね」「ごはんは動き回らないで食べようね」と、その都度言葉をかけてあげる事も大切です。食事時は、汚されても大丈夫なように、新聞紙やレジャーシートを敷くのも一手です。
食事の時間はテレビを消したり、ママがスマホを見るのをやめるなど、子どもが食事に集中できる環境をつくりましょう。
子どもは1歳台になり、歩けるようになると自信がつきます。「自分はなんでもできる」という“全能感”にあふれ、目がキラキラ輝いてくるのがこの時期です。
そのいっぽうで、自分がやりたいと思った事を親に止められたり、それでもやろうとしたり、危ない事をして叱られるとひっくり返って泣き叫んだりなど、やっかいな行動が出始めるのもこの時期。ここからが、本当の意味でのイヤイヤ期の始まりです。
子どもは1歳台後半になると、自分が他者からどう見えるかを意識し始めます。他者から何を求められているのかを理解し始めるいっぽうで、自分と他者は違うという事を強く意識し、主張するようになります。
この時期、「おはよう」→「イヤ」、「ごはんよ」→「イヤ」など、親が何を言っても「イヤ」という子がいますが、言われる“内容”がイヤというよりも、「言われる(指示される)ことそのものがイヤ」ということ。
「私は私、ママとは違う」と、子どもなりに、意思表示をしているということです。
一見わがままともとれるこのような言動に戸惑うことも多いでしょうが、このイヤイヤは、子どもが自分の意思を出せているということ。ママやパパがこれまで子どもとしっかり関わってきた証です。「良い親子関係が築けている」と、自信をもちましょう。
イラスト/犬塚円香 取材・文/長島ともこ