男性A:貴重なお話し有り難うございます。私自身3回お産に立ち会って、2人目で11日、3人目19日のお休みを取ったんですけど、その辺で大分意識が変わったなっていうのを思い起こしながらお話しを聞いていました。
40代が分水嶺というお話しで、男性の働き方も意識も変わって来ているなとあったんですけど、日本には50代とか60代とかなかなかそういう考えが浸透していかない粘土層っているんですけど、フランスにもやっぱり50代60代のガンコ親父みたいな感じで、「父親はこうあるべき」みたいなことを言ったりするんでしょうか。どんな風土なんでしょうか。
高祖:ファザーリング・ジャパンでも粘土層をぶち破ろうということで、イクボスプロジェクトを実施しており、今、上の管理職を揺さぶっています。
高崎:いるんですよ。ただ、発言力は弱いんです。国が明確に示してしまったことだし、人間としての本能でもあり、父親がいることは人間として正しいあり方で、声を大にしてそれに反対するのは恥ずかしいっていう風土なんです。ちらっとは言うんですよ。育休・産休取ってる人達に「おまえらの時代は良いな-」みたいな事は言うんですが、若い人達が「またあの人恥ずかしいこと言ってる」みたいな目で完全に見てますね。
オモシロイ話ちょっと良いですか?
とある地方で講演させていただいた時に、地方新聞の方がその後コンタクトしてくださいました。そして「今若い人達は、『就職活動で最終面接まで通ったら,日曜日に会社に電話して、本当にその会社が働き方を尊重しているかどうかを確認する』っていうんです。働く事に対する意識の違いを僕も感じていてですねえ」とちょっとそれに対してネガティブな感じで返してくださったんですね。私は逆にそういう人達は働き方改革の希望の光だと思っているので、「20代の人達は意識が違って戸惑うかもしれないけれど、そういう時に声を上げられる世代を大事にしていかないともう変わらないので、逆に大事にした方が良いんじゃないんですか?
というお返事しました。するとその方、そういう見方はできなかったって。やっぱり自分も(その方は40代)上の世代の影響を知らずに受けていたんだろうっておっしゃったんですね。長時間労働は良い事だ、それに対して異議を唱えるゆとり・悟り世代がわかってないんだみたいな固定観念ができている。いかにそれを打ち破るかっていうのは、やっぱり発想の新しさが良い事なんだ、それが光に向いて、良い方に向いていくんだって言い続けていかなければならないんですね。ということがありました。
女性A:保育園で疑問に思ったので教えていただきたいのですが、預けている子どもが病気や急に熱が出たときには、フランスの場合はどういう対応になるのですか?
高崎:まず、フランスの保育園の仕組みなんですけれども、小児看護士の資格を持っている人が、必ず保育園に一人いなければならないんです。看護士なので、薬の投与ができるのです。急な発熱の場合はまず親御さんに電話をします。看護士が診て「状態が重篤ではない場合は熱冷ましを与えて、ちょっと様子を見て大丈夫そうならいつもの時間までお預かりする形にしましょう。やっぱり苦しそうだったら御電話する形で良いですか?
みたいにワンクッション置くんですね。もう一つ、地域の消防団との連携が強くありまして、本当にこれは病院に連れて行った方が良いな、危ないなという場合はそこに連絡するマニュアルがあるんです。
なんでもかんでも親御さん、熱出た、吐いた、はいお家、っていうのではなくて、ケースバイケースです。それでもやっぱり迎えに来て貰わなければ困るわということになったら、これは働き方なんですが、病気の子どもを迎えに行くっていうのは親だからしょうがないよね、という文化があります。看護休暇も労働法で決まっています。
こどもがいるとしょうがないよね、でもねっていうのはあるんですけど、日本でのそれとは微妙に違いますよね。日本は大変なんですよね?
どういう風に大変なんでしょうね?
高祖:大変ですよ。それを語り出すとまた1時間くらい………
女性B:私自身助産師なんですけれども、結婚してすぐに子どもができまして、3年間お休みをしました。主人は社会人になって10年間一度も有給を取ったことがない、医師なんですけど。私も産後はボランティアですとかやってましたが、やっぱりスキルアップしたいと思いましたが保活に失敗しました。車で片道30分のところで職場に保育園があるところを見つけて、子どもを連れて通院をして3交代勤務をしつつ沢山の荷物を運んでおむつ持って帰ってきて、というのをやって1年間頑張ったんですが。結局保育料が二人で10万円。手取りが20万円を切って、夜勤もしてて、こんな状態で1年間本当に死にそうになってしまったんです。
フランスの職場の託児所なり附属保育園というのは、事情はどうなんでしょうか?
高崎:フランスでは職選びの基準で、福利厚生がとっても重要なんです。今おっしゃったように、託児施設があるところを探すというのがかなり増えています。企業内保育園も沢山あって、特に2000年から2005年6年くらいにはそれはかなり盛んに作られました。そうなると大きな問題が2つ出てきました。
一つは子どもにも通勤をさせないといけない。もう一つは父親か母親どっちかの企業のお世話になるので、性差によって差ができてしまう。だいたい企業保育園を使うのは母親の方だっていうデータが出てしまった。男女差別を増進させる物だから、企業保育園を増設するのはよろしくないというのが今の傾向です。じゃあ、どうしてるのかと言うと、企業保育ネットワークというのを作りまして、会社の人事部と契約すると、そこのネットワークが持っている全国どこの保育園でも枠を一つもらえるようになっているんです。つまり、自宅に一番近い保育園が会社の福利厚生で手配されるようになった訳ですね。
それはまさに企業保育園。企業と契約して保育園を作ってきた私立保育園に子どもを預けていたお母さんが、「おたくの企業で作る保育園がうちのそばにできるんだけど、同じ会社の保育園ならあっちに入れさせてもらえないかな」って言ったことから始まったんです。ああ、なるほどね、と思って彼らは自分達の範囲から始めて、それが記事になった。全国の保育園などが賛同して問い合わせして、それじゃあネットワーク化しようということで始まったんです。名案ですよね。
フランスは特に、子育て支援というのは女性支援政策なんです。なんでかというと女性が歴史的に負っている部分が多いから。男女差別対策であるっていうのは大きくあるんですね。日本だとそれ言うと問題になるんですって。本来平等であるべきところ、女性ばかり優遇するわけにはいかないでしょ?って。これは某大きな広告会社さんで聞いて、ゲーッと思ったんですが。
同じ事をフランスに帰って聞いたんです。日本ではそういう風な言われ方をしていると。そしたら、もともと差別で低いところにいるんだから下駄履かせないと一緒の所に行けないでしょって、これまた素晴らしい現状認知力を垣間見て。男女が平等であるべきだから女性ばっかり優遇できないと言うんだったら、まず数字で揃えろって。でも揃うことは向こう100年ないから毎日戦うようにして、そういう声をフランスでも抑えていくんだよと言われました。
高祖:母親アシスタントを共同で使うっていうのがありますね。
高崎:そうですね。母親アシスタントというのは基本3人、4人の子どもをみられるので、それぞれの保護者さん3~4人で1人の母親アシスタントにお願いしているんですね。監視する保護者さんが沢山いるかたちになるので、それだけでも安心材料になってるらしいですね。
女性C:有り難うございます。私はイギリスで出産・子育てして、同じヨーロッパでも似ているところと違う所が凄い興味がありました。フランスで子育て支援が充実していると、逆に子どものいない人、できないのかもしれないし欲しくない人は、社会的にどういう経験というかプレッシャーがあるのか、あるいは子どものいない人生もフランスではある意味受け入れられていて、尊重されているのかをお聞きしたかったんですけれども。
高祖:子どもがいない人から不満が出ないかとかいうこともですね。
高崎:子どもの有る無しというところからなのですが、もちろんみんな思うところ有るんですね。ただ、フランスという国の場合、これは良い文化なのですけれども、凄い個人主義の国なので、それが人それぞれなのだから言ってもしょうがないねと。産んだ、産まない選択をした人も尊重されるべきなのだから、産んだ選択をした人も尊重しようということで、お互いそれはもう言わない。ということが大人のあり方という風になっていますね。他人は違うんだから。
もう一つ、社会的プレッシャーが違う所にあって、日本は産む産まないだと思うのですけれど、フランスはカップルであるかないかなんです。「お一人様」が凄い悪く見られるんです。シングルになると全員くっつけようとするのです。よってたかって「一人だったら紹介するよ」って友人家族が総動員で、とにかく人間ていうのはつがいで生きるべきであるという考え方なんですね。だから、変な話、同性愛者に対する権利の方も凄く早かったんですよ。性的な指向が大多数と違っていても、人間はつがいで生きるべきなのだから彼らの権利を守りましょう、みたいな考え方なんですね。
高祖:有り難うございます。じゃあ最後の質問を。
男性B:ちょっと視点が変わってしまうかもしれないのですが、フランスは子どもの教育にいっぱいお金を使っているというイメージがあるんですけれど、日本って逆なんですよね、高齢者の方にお金がいっぱい流れているイメージがある。フランスでは子どもにお金を遣っている分高齢者にはお金が行っていないようなことになっているのか、それとももっと負担が大きいからなんとかなっているのか、そこらへん教えていただきたいのですが。
高崎:すいません、実はこれ私の宿題なんですけれども、フランスで高齢者と子どもの子育てに対する国の予算の違いを並べたものって見たことが無いんですね。というのが、その2つは比べる対象じゃないんですよ。日本でこの前内閣府でお話しさせていただいた時も、高齢者の方の反応はどうですかって聞かれて、「ああっ、そうか」って思ったんですね。
フランスではまず子育て、子どもに関することは触ってはいけないこと、アンタッチャブルなことと思われていて、国の未来であって、それをどうこう言うのはよろしくないと。政治家もそうなんです。政争の道具にしないという共通認識があるのです。ある子育ての政策が通ると、政権が右になろうが左になろうがそれはもうそのままという共通認識があります。あと、高齢者の方達がどうするかなんですけれども、彼らにとっても「子どものことはしょうがないよね」って言う感じなんです。削るのだったら他から削る。特に、国防だの何だの他にも扱うところはありますよね。そっちから手を着けて、子どものことは触らないでおこうというのはあります。
「みんな子どもだったことあるでしょ」って言われたことがあるんです。あなたも3歳児だったことはあるのだから、今の3歳児にどうこう言わない方が良いと。その考え方を日本の方にしたことがあるんですね。自分も子どもの事はあったのだから、社会的な状況が変わってもあなたが子どもであることを許されたように、今の子どもを守るという考え方はできないの?と聞いてみたんです。その人は一瞬ぽかーんとして、「いやー、過去のご恩をかえすというのは日本では無理だね」と。うっそー、ご恩返しという言葉があるのだからできるんじゃないのと思ったんですけれど、「いや、その考え方は難しいと思うよ、日本では」とハッキリ言われてちょっとショックを受けたんですよ。
逆にみなさんはどう思われますか。あなたが子どもだったときに守られて大人になったのだから、今の成人として子ども達を守ろうって言う考え方は日本では理解されるかどうか。
されると思う人、手を上げてください……(パラパラ)
あああっ少ない!
それはちょっと難しいのじゃないって言う方。やっぱり先のこととか今の権利ということが守られているから子どもの事も守られるよという方。ほんとお気になさらず手を上げてください。
そうですよねえ、やっぱりありますよね。
高祖:なんかこの先がくらーい感じになってしまいますね……
河合:しかし、そうしていかないと社会は続かないですよね。もっとも、フランスが子どもにわんさとお金を遣う背景には「子どもは国力だ」という発想も強くあるようですね。軍事力の増強に繋がる発想ですが。日本では、「『産めよ増やせよ』はいけないんだ」とみんなが批判をしますけれど、実はフランスはドイツに占領されてとても辛い思いをしたんです。地続きで、いつもそういう危機感がある。
なぜ負けたのかというと、やはり子どもがいなかったからだと。フランスは、18世紀から少子化の傾向があった訳ですよね。その時、「子どもがいなかったから大変なことになるんだ」という結論を、社会が出したらしいのです。そんなことを、人口学の研究者の方から聞いたことがあるんです。
高崎:それ、おもしろい話ですね。
前に家族省の人をインタビューしたんです。「日本は出生率の目標数字というのがあるんですよ。1.8っていう。フランスでは出生率はどう思われてるんですか?
って尋ねると、「産むのは個人の自由だから、それに国が何か目標を設定するっていうのはやっちゃいけないことになってるんだよね」と言われました。いかにそれを産める方に持っていくかを考えるのが国がやるべき事で、裏を返すと出生率というのは、社会が円滑にまわっているかどうかの指標なんですって。下がってくると問題があるぞって言うことで、整えるべき事があるっていう指標だと考えています。だから、目標数値ではないと言うのがとっても良い考え方だと思います。
高祖:ということでもう時間が無くなってしまいました。みなさんこのまま夜中討論会をしたいくらいなんですが。最後に一言メッセージをいただいて終わりたいと思います。
河合:私、高崎さんがこの本を出してくださったことって、凄いことだと思うんです。私たちがフランスに行って取材しても書けない、ここ(フランス)で産んで、たまたま書く、取材する方であるといういろんな偶然が重なって、高崎さんのこの本がある。
私もフランスの事知りたくていろいろ読んできたんですけれど、高崎さんの本は本当に具体的に書いてあるんです。フランスってこうらしいよ、という話はいくらでも聞こえてくるんだけれど、本当のところはどうなのかという細かい所まで書いてあって。財源のこともきっちり書いてありますし、本当に有り難うございます。
皆さんも是非読んでみてください。
高崎:今の涙が出るほど嬉しいのですが、私がこの本を書いた動機っていうのは、やっぱりそれ(元気を与えること)だったので。調べて行く間、私自身、フランスの人達に感動したんですね。本当に諦めないんですよ。フランス人は文句が多いっていうのは、いかにして今より1%でも良い世の中にできるかというのを、しつこくしつこくやっている人達なんですね。彼らが凄いリアリストなのは、「理想は理想よ、でも理想がないと前に進めないでしょう」と。それを目指して1%でも前に進もうと。
日本では、「子育ては大変」というのを広めましょう。もう一つは「解決」という言葉を禁止ワードにして子育ての世界は「改善」にしましょう。解決しようと思うととっても我田引水で、非現実的な話しか出てこないんです。出生率を1.8にするとか。1.8にするのじゃなくて、1.43を1.5にするところから始めようよ、とにかく1%ずつ善くしようよ、という考え方をフランス人から学べるのじゃないかと思ってるんですね。それに感動したので、保育教育関連では素人の私が、子どもを産んだだけ・たまたま取材ができる人間だっただけの私でも書いてしまおうと思ったのはそれで、本当に一人一人この本を読んでくださった人が一人ずつ声を上げていけば、ちょっとずつ変わっていくかもしれないと感じたんです。フランス式で。
ということで、ここにいる皆さんからまず声を上げていただき、子育ては大変なんだということを広め、まずおむつは園で捨てられるように…と、一つ一つ改善して行けたら。
本当に今日はお忙しいところ有り難うございました。
<登壇者プロフィール>
高崎順子さん:ライター
東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌ等でフランス語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材、執筆のほか、各種コーディネートに携わる。著書に『パリ生まれ プップおばさんの料理帖』(共著)『フランスはどう少子化を克服したか』など。
河合 蘭さん:出産ジャーナリスト
1959年東京生まれ。3児を育てつつ現代人が親になる際のさまざまな問題を30年間に渡り追ってきた。主な著書は「科学ジャーナリスト賞2016」受賞作『出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新聞出版)、『卵子老化の真実』(文藝春秋)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版)、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』(岩波ブックレット)など。翻訳書、共著多数。講演やメディアへのコメント、写真撮影も行う。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院、日本赤十字社助産師学校の非常勤講師。
http://www.kawairan.com/
高祖常子:育児情報誌miku編集長
子育てアドバイザー、保育士、社会教育主事ほか。NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事マザーリングプロジェクトリーダー、NPO法人タイガーマスク基金理事、NPO法人子どもすこやかサポートネット副代表ほか。育児誌を中心に編集・執筆を続けながら、子ども虐待防止と、家族の笑顔を増やすための講演活動、ボランティア活動も行う。地方紙にて「育児コラム」連載、オールアバウト「子育て」ガイドとしての記事執筆、編著は『ママの仕事復帰のために パパも会社も知っておきたい46のアイディア』(労働調査会)、『パパ1年生』(かんき出版)、『新しいパパの教科書』(学研)ほか。3児の母。
<開催概要>
2017年08月22日(18:30-20:30)
開催場所:筑波大学文京校舎(茗荷谷キャンパス)
(東京都文京区大塚3-29-1)
定員:30人(先着順)